「丁寧に、柔軟に、妥協せず」からひもとく、
私がデザインで大切にしていること。

こんにちは、デザイナーの前田です。

仕事をしていると、デザインで何を大事にしているか聞かれることが度々あります。そのたびにうまく言葉にできず、いつかちゃんと向き合ってみたいと思っていました。
そんなとき、ふと目に留まったのが、会社のHPをリニューアルする際に作られた「丁寧に、柔軟に、妥協せず」という言葉です。

改めて眺めてみると、自分がこれまでの仕事の中でなんとなく大事にしてきたことと、重なる部分が多いことに気づきました。デザインを始めてから身についたものもあれば、デザイナーになる前の経験から、なぜか今も残っている感覚もあります。

というわけで今回は、この言葉をきっかけに、自分が大切にしている「デザインへの向き合い方」を、いくつかの経験を振り返りながら書いてみようと思います。

丁寧に ― たくさんの中の、ひとつ

以前、ケーキ屋さんで働いていたことがあります。

毎日たくさんのケーキをつくっていると、つくっている側からすると、どうしても「何十個のうちの一つ」になってしまうんですよね。
でも、お客さんが買って帰るのは、たった一つのケーキです。

誕生日かもしれないし、誰かへのプレゼントかもしれない。
今日という日を、ずっと楽しみにしていた方かもしれません。

だから、一つひとつを早く、丁寧につくること。
そのときシェフに言われた言葉が、今でもずっと記憶に残っています。

自分にとっては数ある仕事のうちの一つだとしても、クライアントにとっては、費用と時間と想いをもって依頼してくださった大切なプロジェクトです。
自分にとっては何十ページもあるうちの1ページだったとしても、見る人にとっては、その1ページがその会社との最初の出会いかもしれません。

そう考えると、「丁寧に」というのは、受け取る人にとって、
それが「ひとつ」であることを忘れないことなのかもしれないな、と思っています。

柔軟に ― 自分の正解に固執しない

デザインをするうえで、自分なりの考えを持つことは大事だと思っています。

でも同時に、「自分が考えたもの=正解」というわけではありません。

そもそもデザインには、これが唯一の正解、という答えはないように思います。
それでも、正解らしいと感じられる方向はあって、
大事なのは最初からそこを言い当てることよりも、自分の出した答えを、正解らしいところへと限りなくにじり寄らせていくことなのかもしれません。

そのために大切にしたいのが、自分のプロとしての感覚です。
そして同じくらい、クライアントの感覚も大切にしたいと思っています。
クライアントは、その業界のプロであり、自分たちの会社やブランドのことを理解している人たちだからです。

自分がその業界や企業、ブランドのことを、完璧に理解できているわけではありません。
だからこそ、一度出した答えを「これで完成」と閉じてしまわずに、もう少し正解の方向に近づくための余白を、自分の中に残しておきたいと思っています。

「柔軟に」というのは、自分の答えに余白を持ちながら、
クライアントの感覚も重ねて、より正解に近づいていこうとすることなのかもしれません。

妥協せず ― 楽をしようとしない

昔、先輩からかけてもらった言葉があります。

「楽をしようとしないほうがいいよ」

作業の合間に何気なく言われたことだったと思います。
けれど、今でもふとした瞬間に思い出します。

これは、効率を無視するとか、
とにかく時間をかければいいという話ではないと思っています。

「まあ、これくらいでいいか」と思ったところで、もう一度だけ考え直してみる。

文字間を少し調整してみる。
写真をもう一度探してみる。
別のレイアウトを試してみる。
言葉を読み直してみる。

その一つひとつは、他の人にはたぶん気づかれないくらい、小さな違いです。

でも、全体の仕上がりは、そういう小さな判断の積み重ねでできているような気がしています。

「妥協せず」というのは、完璧を求め続けるというより、
その小さな違いを「まあいいか」で済まさないことなのかな、と思っています。

ことば ― ことばから、世界を立ち上げる

そして、この三つの姿勢とともに、自分のデザインに欠かせないものがあります。

それが、ことばです。

ことばを大切にしていた環境にいたことがあり、その影響もあってか、広告やCMを見ていても、今でもついコピーに目がいってしまいます。良いことばがあって、そのことばとグラフィックがぴたりと重なった瞬間、その広告の世界が一気に立ち上がるような感じがして、それが結構好きなんです。

ただ、「先にコピーを決めて、それをビジュアルにする」という一方通行のつくり方とは、ちょっと違う気がしています。

最初にある、まだ形になっていない曖昧な感覚を、いったんことばにしてみる。
そこからグラフィックをつくってみる。
つくってみると、「あれ、なんか違うな」「本当に言いたかったのは、こっちだったかもしれない」と気づくことがあります。
そうしたら、またことばに戻ってみる。

ことばから世界を立ち上げて、立ち上がった世界から、また新しいことばを見つける。
そんな行ったり来たりの中で、少しずつデザインができていくような気がしています。

さいごに

丁寧に、柔軟に、妥協せず。そして、ことば。

こうして並べてみると、ケーキ屋さんでの経験、先輩からかけてもらった言葉、そしてことばを大切にしていた日々。それぞれ別々の場面から生まれたものなのに、根っこの部分ではつながっているように思います。

丁寧に、というのは一つひとつを雑に扱わないこと。
柔軟に、というのは自分の答えに余白を持つこと。
妥協せず、というのは「まあいいか」で判断を終わらせないこと。
そしてことばは、まだ形になっていない感覚を、いったん言葉にしてみること。

最初から答えが分かっていて、それをきれいに形にする、というよりは、

よく知る。
ことばにしてみる。
つくってみる。
違和感に気づく。
また考える。
細部を整える。

そんな行ったり来たりを積み重ねていくうちに、ようやく「これだ」と思えるものに近づいていくような気がしています。

ケーキ屋さんで働いていた頃も、
ことばを大切にする人たちと働いていた頃も、
そして今も。

かたちは変わっても、自分が大事にしていることは、
案外あまり変わっていないのかもしれないな、と思ったりしています。

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nicotto lab

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